使用量ベースの価格設定における販売報酬
注:本記事は(2022年3月24日)に公開された(Sales Compensation in a Consumption Pricing World)を翻訳して公開したものです。
今日の組織では、SaaSソリューションにかかるコストおよびこれらの製品から生じる価値との間に、より密接な連携が求められています。その結果、多くのソフトウェア企業において、サブスクリプションモデルに代わるものとして、使用量ベースの価格設定モデルの採用が検討されています。
使用量ベースの価格モデルでは、お客様は使用した分だけを支払い、使用量はお客様において生じた価値に直結しています。
もちろん、使用量ベースモデルでは、お客様がソリューションを使用しない限りソフトウェア企業は収益を上げることができません。サブスクリプションモデルと違い、使用量ベースモデルでは契約や更新ではなく、使用そのものから収益を得るからです。
ここで、次のような疑問が生まれます。「お客様が自社の製品から価値を生み出す方法にセールスチームを寄り添わせる最善の方法とは?」
その答えは、セールス担当者が果たす新たな役割に対し、まったく新しいアプローチで報酬を与えることです。セールス担当者に、使用量や個々のお客様がいかにしてソリューションの使用からより多くの価値を創出できるかについて考えさせ、それに対するインセンティブを与えなければいけません。報酬はセールス担当者のサポートによりお客様がソリューションの使用から得られた価値に基づくべきであり、従来の測定方法以外にも、お客様による使用量といった形でも測定することができます。
約3年前、Snowflakeでは販売報酬に使用量という要素の取り入れを始め、(予想通りに)混乱をきたし、(期待通りに)戦略的な成果を上げました。このプロセスを通じ当社では多くのことを学び、調整や改善を加え、カスタマーバリュー、Snowflakeの戦略目標、さらに販売会社の役割といった間の連携を向上させてきました。ここに、当社が把握したメリット、知見、ベストプラクティスをいくつかご紹介します。
使用量と報酬の調整に関する考察
使用量ベースの価格設定モデルは顧客中心の考え方に基づいているため、お客様が本モデルを評価することは当然と言えます。本モデルでは、お客様との関係が続く限り、営業担当者はソリューションが生み出す価値をお客様に認識してもらおうと意識します。
ソフトウェア企業もまた、実際に使用量がどのように機能しているかを反映した報酬制度を構築することでメリットを享受することができます。重要な点は、セールス担当者がカスタマーライフサイクル全体における積極的な当事者となることです。
このアプローチは、相当な意識改革が必要となります。セールス担当者は、ソリューションの販売で留まるのではなく、お客様の長期的な事業成功まで視野を広げなければなりません。お客様がなぜそのソリューションを購入したのか、どのようなユースケースが早期導入や使用への引き金となったのかを把握する必要があります。密な関係を構築しお客様側のニーズの変化を理解することで新たなユースケースの特定につながり、アップセリングの機会を自然に得ることができます。セールス担当者がこういった活動のつながりを認識し、全体的なインセンティブ構造に与える効果を理解できれば、物事はうまく進みだすものです。
さらにお客様は、自社がソリューションの価値を実感しない限り、セールス担当者の給与にその価値が反映されることがないことを知っています。このような現実により、セールス担当者はお客様の戦略にさらに寄り添うようになるといった相乗効果が生まれ、お客様との信用や信頼の構築へとつながります。
ソフトウェア企業側にも、使用とはある程度慣性的なものであることを認識しておく必要があります。使用を「弾み車」のようなものだと考えてください。勢いをつけて拡大を促すには、適宜、回転の追加が必要です。例えばお客様において、ソリューションの移行当初は使用量が増大するかもしれませんが、ルーティン化するに伴い使用が減少して落ち着いてしまう場合があります。このようなときは使用パターンを再び上昇させるためにセールス担当者が新たなワークロードを提示する必要があります。
経験に基づく報酬ベストプラクティス
契約を中心とした販売報酬から使用量の要素を取り入れたハイブリッド報酬モデルへの移行を通じ、私たちは多くのことを学びました。そこで、使用量ベースの価格設定モデルを採用しようとしている企業に対し、確固とした報酬制度策定の助けとなる5つのヒントをご紹介します。
エクセレンスの定義
報酬レート表を作成するには、エクセレンス(卓越性)を考慮する必要があります。エクセレンスとは何を指すのか、また、セールス担当者がエクセレンスポイントを達成した際、支払うターゲットインセンティブをどのように換算したいのか、を考える必要があります。
契約やサブスクリプションをベースとしたプランでは、業界の標準となっているブレイクポイント(分岐点)やエクセレンスポイントが存在します。これらは各企業内で調整され、その経験がSaaSビジネスにも適用されています。しかし、使用量ベースモデルにおいては、まだそのようなものがありません。この価格設定モデルには十分な実績がなく、広く受け入れられるような基準も構築されていません。また、使用量ベースにおいてエクセレンスが何を指すのか、という点について同僚やアドバイザーにベンチマークを求めることもできません。誰にも知識がないからです。そのため、エクセレンスの定義においては試行錯誤を繰り返すしかなく、このプロセスを反復的に行う必要があります。
2年目に入りSnowflakeでは、ノルマ設定に向け企業収益予測をより意図的に使用するようにしました。インセンティブ報酬の設定を考えるとき、収益予測も重要な要素となっています。予測精度に関するデータを用いエクセレンスとは何かの理解に努めました。その翌年には、ヒストリカルデータを使用して実績を振り返り、ノルマに対するセールス担当者の実際の達成状況を確認することができました。この分析により、分配状況を把握し、エクセレンスについての認識を深めることができ、さらに期待値以上の成果に対してどの程度積極的に報酬を与えるべきかなどの知見を得ることができました。
セールス担当者とカスタマーニーズとのマッチング
使用量ベースの価格モデルでは、営業担当者の専門的な知見がさらに重要となってきます。お客様に最終的な購入を決断させるにはある種の才能が必要であり、また、お客様と連携してソリューションの使用を促しその価値を認識させるには別の才能が必要です。さらに、可能性が広がる未開発分野で必要なスキルセットと、実績のあるお客様が対象の成熟した分野で必要なスキルセットも異なります。
この課題に対応するために、当社ではテリトリープロファイルを導入しました。セールス担当者のテリトリーの状況に基づき、契約や使用量プランに対し異なる重みづけを実施しました。例えば、まだ開拓の余地が多くあるテリトリーに対しては、そのセールス担当者が受け取るターゲットインセンティブを契約「7」、使用量「3」とします。逆に、成熟したテリトリーのセールス担当者には、契約「3」に対し使用量「7」のインセンティブを設定する、といった感じです。
私たちが目指しているのは、セールス担当者が自身のノルマに対し、時間をかけて真摯に取り組めるような割合です。そうすることにより、そのテリトリーで期待される状況に基づいて報酬制度を調整することができ、ひいてはセールス担当者にとって理想の形にすることができます。
テリトリープロファイルでは、セールスマネージャーが必要とする人材を決定することもできます。セールスチームをアカウントのプロファイルや特定地域のニーズに合わせて調整することも可能です。例えば、マネージャーが担当するテリトリーのうち3つは未開発で2つが成熟しているとします。Snowflakeでは、セールス担当者のスキルや強みに基づいて、マネージャーがテリトリーに合った担当者を柔軟に雇用、割り当てることができます。
一番重要な点はマネジメント側が、自社の事業、セールス担当者、テリトリーのニーズを深く理解し、お客様それぞれのニーズをサポートする適切な人材を確実に割り当てることです。
製品や営業戦略をサポートする報酬制度
カスタマーセグメント全体に対し、インセンティブ構造をセールスモデルに合わせて調整したいと考えるのではないでしょうか。「営業主導」または「製品主導」成長のいずれかに比重を置くソフトウェア企業もある一方、多くの企業は双方を組み合わせており、この組み合わせはターゲットカスタマーセグメントとユーザーオンボーディングエクスペリエンスにより牽引されています。
製品主導成長においては、ユーザーがオンデマンドアカウントに登録し、ドキュメントを読み、セールス担当者と言葉を交わすことなくソリューションの使用を開始するケースが多いです。その後、アクティブユーザーによる使用パターンが確認されると、セールス担当者がすばやく契約を持ちかけることでしょう。このようなシナリオでは、セールス担当者は、(既に製品を使用中のため)顧客の増加に時間をかけすぎることなく、契約に基づく価格モデルを推奨すべきかもしれません。
このような製品主導成長の流れでは、非常に重要なセールスオーバーレイがあり、より大規模な企業見込み客に対する営業主導とは異なるアプローチが必要となっています。このようなケースでは、見込客はソリューションを試験的に使用するかもしれませんが、契約が交わされない限り本格的に使用することないでしょう。そして契約が交わされても、ソリューションの使用開始前に移行作業が必要かもしれません。このようなケースでは、目標とする時間枠の中でお客様が期待する価値をソリューションから引き出すために、セールス担当者には専門的なサービスチームやサービスパートナーとの連携の調整を含めた、プロダクションに向けたアプローチが推奨されます。このようなケースでは、セールス担当者に使用量ベースを主軸として話を進めてほしいと思うでしょう。
適切な目標設定とフィールドの有効化
もともとセールス担当者はゴールを超え、設定した目標以上の成果を上げたいと思うものです。しかし、サブスクリプションモデルでの契約200%達成は、慣性的な要素を含む使用量モデルにおける200%達成と大きく異なります。営業担当者が計画段階では誰も予想もしなかった大きな契約を結んだことで契約割り当て分を超過することがあるかもしれませんが、このようなことは使用量ベースでは起こりません。セールス担当者が交渉中の新規顧客は、通常稼働に至るまでにある程度時間が必要であり、この期間は使用量ベースのプランに織り込まれることが多いです。
これらのすべての点を考慮すると、使用量ベースは諸刃の剣と言えます。企業が出した予測が良好であれば、配分の設定は容易となり、営業担当者に伝える数字にも自信を持つことができます。しかし、担当者がその数字に心を動かさなければ、「予測がそんなに正確だと、どうやってそれ以上の成果を上げればいいのか」とがっかりしてしまうかもしれません。
セールスリーダーは、営業担当者のやる気を引き出し、計画された収益を上げ、彼らの意欲を保ち続ける必要があります。報酬制度は年金制度とは異なりますが、使用量ベースのプランの場合、2つが統合される(またはそのように捉えられる)リスクがあります。
これは、セールス担当者が自信を持って使用について言及できること、セールスメソッド、アカウント計画、顧客の四半期ごとのビジネスレビュー(QBR)に必ず機能が取り入れられていること、を意味しています。セールス担当者は、必要なツールを有し、個々の顧客の使用を可視化しておき、使用量だけでなくどのようにソリューションを使用しているかを確認できるようにしておきます。これらのインサイトによりセールス担当者は自信を持つことができ、価値の達成に向けてどのような状況にあるか、追加として想定されるユースケースはどのようなものかについて、情報に基づいたやり取りを顧客と交わすことができます。理想としては、セールス担当者が移行/導入計画におけるマイルストーンごとにパフォーマンスを振り返り、こういったデータポイントを長期的な顧客との対話に使用することができればよいと思います。
カスタマーサクセスの徹底
セールス担当者は「カスタマーサクセス」に関わるべきだ、という印象を与えているとしたら、それは彼らがそうすべきだからです。多くのソフトウェア企業がセールスとカスタマーサクセスの役割を個別に信頼している一方、使用ベースの価格モデルにおいては、顧客のライフサイクルや顧客とソフトウェア企業間でどのような作用が想定されるかといった点について、新たな手法で考えることが必要です。
使用量ベースの価格モデルでは、顧客である期間に基づいて顧客ごとに異なる考え方をする必要はありません。個々の顧客がビジネス機会を反映しているからです。個々の顧客が比較的独自の方法でソリューションを使用しています。個々の顧客が未だ認識されていない、新たなユースケースやワークロードを抱えています。使用を拡大し、より多くの価値を創出できるかどうかはセールス担当者次第ということになります。
セールス担当者は、顧客の支持者となり、会社全体で団結して顧客を成功に導けるよう手綱をとる必要があります。
使用量に対する報酬制度を機能させるためには何が必要か
使用量の要素を取り入れた報酬制度を策定しようとしている場合、必ず適切なノルマを設定してください。セールス担当者が常にインセンティブ報酬制度とノルマを別々に考えているわけではありませんが、本来はそうすべきです。前者は、プランに基づく測定について、および測定結果に基づいた支払い方法に関するストラクチャーとなっています。ノルマは各営業担当者が年間を通じて達成すべき金額(およびそれに対する報酬)となっています。
報酬制度の改良において注目すべき5項目
- 報酬制度における最初の測定。セールス担当者が、全社的なビジネスに比較した使用量に対する報酬をどのように受け取るかを明確にしておきます。たとえば、報酬制度に含まれているもの、除外されているものは、具体的に何か、契約による顧客とオンデマンドの顧客に対し、使用量に対する報酬はどのように支払われるか。セールス担当者に関しては、オンデマンド顧客向けの特定の販売イベント後に新たな使用量が発生したときのみ報酬が発生することになるのか、といった質問に答える必要があります。このような質問は、報酬制度を会社の戦略目標と擦り合わせ、顧客に価値を提供する際に必要です。しかしそれだけではなく、セールス担当者が自身のゴールを理解する際や、顧客による使用量拡大を図りつつ報酬制度における最初の測定にどのように調整させるか、といった点で、セールス担当者にとっても重要なものだと言えます。
- メカニズムと価格表の計画。使用量は異なる動きを見せるため、契約レート表を直接使用量に換算することはできません。自身で考え、使用量のパラメータをどのように調整すれば有効となるかを判断する必要があります。実際のパフォーマンスを表すベルカーブ(釣鐘曲線)をつかむまでは、効果的な加速テーブルを設定するのは難しいかもしれません。また、セールス担当者が換算されたターゲットインセンティブを受け取る際、加速テーブルを構築するために、エクセレンスがどのようなものであるかも理解しておく必要があります。これを行う唯一の方法は、アカウントのパフォーマンスや前倒しで受け取るべき状況を把握しておくことです。これには時間とデータが必要です。これは継続的な改良に向け成熟した分野であり、適切な実施までにはある程度時間がかかることを認識しておく必要があります。使用量の本質を考慮すると、ベルカーブが契約の収益曲線より狭まったりすることがない点、留意してください。
- ノルマ設定の促進に向けた収益予測。効果的なインセンティブ報酬とは、収益や契約に協調しており、ノルマは会社の予測や契約計画に協調している必要があります。最終的には、会社レベルでの収益計画はセールス全体で一貫していなければなりません。既存の個々の顧客についてその概要を把握し、新たな顧客がどのような重なり方をするのかを検討します。これがノルマ設定の土台となります。ノルマ設定は単純な定型ではない点も重要です。予測は非常に重要であるものの、ノルマ設定における唯一のインプットとなっています。テリトリー内のアカウントに対する知識、彼らのソリューションに対する計画も、同じくらい重要です。そのため、オペレーションや財務チームではなく、セールスマネージャーが、アカウントレベルの予測に加えて会社の予測や地域目標を使用し、担当者の最終的なノルマを設定するべきです。これらのインプットによりセールスマネージャーは、アカウントに対する知識に基づいた、調整可能な、最終的なノルマを設定できるようになります。
- 計装とデータの可視化。使用量ベースの価格設定モデルは、顧客による使用をモニタリングするツールやインフラストラクチャーが不可欠です。これは最低条件です。製品について、また顧客による製品の使用法について、あらゆることを適切に計測する必要があります。さらに、使用量をセールス担当者のクレジットに換算するデータパイプラインの構築も必要です。すべての人が正確な支払いを受け取るためには、すべてのチームにまたがるテリトリーデータと組み合わせたこの使用データが必要です。対象とするモデル次第では、クレジット付与用データパイプラインは非常に複雑なものとなる場合があります。それでも適切に構築し、セールス担当者への支払いが正しく行われることが重要です。
- 教育とレポーティング。使用量についてわかりやすく説明し、セールス担当者が理解していることを確認することが重要です。これはたいていの人にとって新たな概念のため、セールスオンボーディング、研修、イネーブルメントアセットの作成、更新が必要です。セールス担当者には、現地に合わせた教育が必要で、使用量ベースの価格設定モデルを自信を持って提唱できるようになる必要があります。セールス担当者がすぐに業務に取り掛かり、アカウントの使用状況、使用を促進する要因、ユースケースの概要を理解するには、即時にレポーティングが利用可能である必要があります。適切な研修およびイネーブルメントをデータドリブンなインサイトと組み合わせることで、セールス担当者は自身の業務に集中し、見込み客や顧客から、使用量ベースの価格設定によるメリットを受け取ることができるでしょう。
反復が成果をもたらす報酬制度
会社の全体戦略に合致していれば、使用量ベースのインセンティブプランの採用は適切な動きと言えます。セールスは、本戦略における顧客対応を拡張したものであり、目標は常に、顧客価値を伴う販売報酬であるべきです。
スタートアップ企業は、何もないところから始めるため、使用量ベースの価格設定モデルや使用量を中心とした報酬制度の導入をより簡単に感じるかもしれません。この点に注力することで企業は、データの収集やベルカーブの決定を受けて、使用量プランを発展させていくことができます。
より成熟した企業においては、既存のアカウントや契約をどのように取り扱うか、という点においてより時間をかけて本プロセスを計画する必要があります。最初から、例え2回目でも完璧な報酬制度を策定できることはないため、反復が必要となります。データを収集し、計画の改善に必要な経験値を挙げましょう。最終的に使用量に反映され、セールス担当者がカスタマーバリューに寄り添うことにつながります。