データサイエンス:コーポレートファイナンスの未来
注:本記事は(2021年8月31日)に公開された(Data Science: The Future of Corporate Finance)を翻訳して公開したものです。
コーポレートファイナンスには変化が必要です。業界を問わず、組織の財務チームは収益指標やその他の財務指標を用いて今何が起きているかを明らかにし、さらにどのような未来が待ち受けているか予測するはずです。これと同じことを組織全体に対して行う必要があります。
最近まで、このような要求を満たすことは不可能でした。Excelを中心とした予測では、各四半期末までにデータを集め、数字を報告することは超人的な努力が必要でした。しかし日次的にインサイトを提供することは、多くの財務チームにとって夢物語であり続けました。結局、明らかになるのはすべて過去のことであり、未来ではありません。
今では、SaaSプランニングツールにより、ローリングフォーキャストやシナリオモデリングが可能となっています。これにより、財務組織は現在何が起きているかを理解し、月1回のペースでビジネスを再予測することができるようになりました。しかしこれで十分でしょうか。
データやレポートは通常、SaaSツール内に格納されますが、それによって、1) 予測と予測との間でどのような変化があったのかを詳細に測ることが困難になり、分析や将来に向けたインサイトが阻害される、2)データを広範な組織と共有できなくなり、事業部門全体や主要な関係者との間での共同の理解が阻害される、という弊害が生じます。
財務チームは、進化と戦略性を求められる組織のすべての事業にとってデータドリブンなスーパーヒーロー的存在です。リアルタイムにフィードされるオペレーショナルデータは、これまでのように受動的ではなくプロアクティブになるきっかけとなります。しかし、データだけではこの進化が加速することはありません。日次ベースで多数の指標を再予測する動的なモデルを作成し、リアルタイムなビジネスインサイトを得る能力が必要です。さらに、他の事業部門とパートナーシップを構築できるよう、財務部門に権限を持たせる必要があります。
財務の将来がデータドリブンな戦略的計画と予測であるならば、財務組織を際立たせるのは、データサイエンスへの投資です。
データサイエンティストを財務組織に組み込む
データドリブンな戦略を活性化する最良の方法は、データサイエンティストを雇用することです。これはIT部門から人材を借りてくるとか、他のグループとリソースを共有するといったことではありません。データサイエンティストを財務チームのメンバーとして迎え、財務の職務に専念させ、日々の仕事や痛点への理解度を高めます。データサイエンティストを組み込むということは、彼らが財務のありとあらゆる面でデータを駆使し、ファンクショナルエキスパートとしての役割を果たすことができることを意味します。
財務計画&分析(FP&A):これらのチームは、業種に関わらず、予測と予算作成に責任を負います。会社の価格設定構造の細部を知るデータサイエンティストは、正確な予測に向けてFP&Aの主要要件を反映した一連のモデルを構築できます。データサイエンスを予測に用いることで、収益がどのように追跡されているかについてのフィードバックを直ちに入手でき、それが時を経てどのように展開しているかを把握できるため、リアルタイムな調整が可能になります。
Snowflakeでは、主要な財務収益指標が消費に基づいてることから、従量課金制の価格設定モデルに関して、日次で収益を予測します。この日次の再予測は、当社のビジネスを真に理解しているデータサイエンティストでなければ不可能です。
売上原価:データサイエンティストは、売上原価(COGS)関連の財務を改善するためのモデルを構築することもできます。プロダクトまたはサービスを提供するにあたってサプライチェーンに依存している、または外部リソースを消費している組織は、原価構造と利ざやを分析することでメリットを得ることができます。カスタマーの使用量は時が経つにつれ増えていくので、プロバイダーを変えたり、ベンダー契約の再交渉によって収益性を高める機会が存在するかもしれません。プロダクトの需要を理解することで、収益予測と原価予測の両方を生成し、コスト削減、収益性の向上、または価格調整の機会を明らかにできます。
研究開発(R&D):同様に、企業がこのままサードパーティプロバイダーから購入を続けた方が良いか、社内で開発した方が合理的かを判断するため、R&D評価を実施する場合があります。一元化されたデータがあれば、データサイエンティストは大規模な事前投資をペイできるか、またペイしてプラスの財務結果が得られるまでにどれくらいに期間がかかるかをモデル化できます。あるいは、他社を買収することにより特定の能力を社内にもたらす方が得策かどうかを、データモデルを使用して判断することもできます。
税務と資金繰り:他国で事業体を立ち上げようとしている企業は、税の影響を認識する必要があります。資金管理チームは、事業体に適切な資金があるか確認し、コストと収益のバランスを取りながら税負担を適切なレベルにしたいと考えます。データサイエンティストがいれば、大まかに推定するのではなく、カスタマーの所在地、売上高、更新数といった要素に基づいて、いつどこで事業体を立ち上げるべきかをモデル化し、予測収益、原価、キャッシュフローにどのような影響が出るかを判断できます。
調達:データサイエンティストは情報の共有を通じて調達に変化をもたらし、調達部門とIT、マーケティング、およびセールスチームとの間の連携を図ることができます。たとえば、セールスチームと調達チームが同じカスタマー/ベンダーと取引していることをまったく把握していないというケースも珍しくありません。この状況を利用すれば、より良い料率や条件で交渉し、コスト削減が達成される可能性もあります。
組織全体の各部課と協力しあう
財務組織でデータサイエンティストを採用すると、財務をより戦略的でプロアクティブな組織へと進化させ、組織全体の関係者をデータドリブンにして、より良い意思決定が下せるよう支援できます。追跡すべき個々のチームの主要指標の識別から、各チームがいかにビジネスの各要素を予測し、よりコスト効果的に成長し、行動できるかを見極めることまで、コラボレーションの可能性は無限大です。
データサイエンス以外の主要要件の1つとして挙げられるのは、組織全体でシングルソースのデータと指標を共有することです。これ以下のもの(分離されたビジネスシステムやExcelスプレッドシートなど)は、データのサイロと同じで、情報やインサイトのリアルタイムでの共有の妨げになります。
組織全体での整合性を促進するためにも、財務部門は契約額、収益、原価、その他の財務データセットに関連する一連のデータモデルを、他のチームも利用できるように維持すべきです。このように一元化された共有データソースにより、各部課が財務組織と同じ言語を話し、同じ推定のもとで仕事をし、独自の分析を展開して業務を改善することができます。結果として、各部門間でより効果的で協働的な対話が生まれ、会社の目標やビジョンに向けた連携がさらに強まります。
定義した指標に関するフィードバックが早ければ、それだけ簡単により多くの資金を成功が期待できる分野に再投下することができます。たとえばマーケティング部門がキャンペーンに成功して大量の需要を喚起し、チームが財務に予算を増やすよう要請した場合、リアルタイムに意思決定を下すことができます。
営業:カスタマーとの契約額に関して責任を共有している営業や財務といった部門間では、連携が特に重要です。営業部門は当該四半期もしくは会計年度内の契約額を気にする一方で、財務組織は今後1年から10年の契約額を気にします。これがキャッシュフローに影響するからです。これら2つの部門は異なるアプローチをとり、異なる地平線を見ているとしても、より確固とした予測を構築し、ビジネスをより予測可能なものにするには、情報を持ち寄り、総合することが大切です。
エンジニアリング:エンジニアリング部門の焦点は、新しい機能を構築することですが、財務組織は、導入された変更がプロダクトのコスト構造にどう影響するかを把握しておく必要があります。エンジニアリング部門がリリースする新機能により、プロダクトの効率性が高まる場合もあります。こうした改善について財務部門が事前に知っておく必要がある理由は、効率性向上により利用量が減ると、カスタマーにとっては好ましくても、自社にとっては収益が減る場合があるので、この点に関しての予測を調整する必要があるからです。これは反復的なプロセスであり、エンジニアリングと財務との間の相互関係で成り立つものであり、オープンな連絡手段と、共通のデータモデルや分析が必要です。
プロダクト管理:財務部門のデータサイエンティストは、新しい機能のローンチや新しい市場への移動に伴うコスト、価格設定、収益化のモデルを構築するため、プロダクト管理部門とも連携する必要があります。プロダクトチームは、財務モデルや独自の分析に基づいて独自に戦略決定と意思決定をするのための権限が与えられる必要があります。この結果、コスト、収益、利益率、価格設定の影響が分析によって裏付けられているため、プロダクトレビューまたはエグゼクティブレビュープロセスにおいて、より効率的な議論とよりスムーズな意思決定が可能になります。
適切なデータプラットフォームへの投資
前述のとおり、一元化されたシングル・ソース・オブ・トゥルース(信頼できる唯一の情報源)は、会社全体で情報を共有する上で非常に重要です。財務部門の視点から見ると、最新のクラウドデータプラットフォームはこのすべてを実現する屋台骨的な存在であるべきです。クラウドデータプラットフォームは、大量のデータを一元化し、それを迅速に処理し、革新的なデータモデルを構築して、リアルタイムな意思決定を可能にする唯一の方法です。
- 拡張性とパフォーマンス:何よりもまず、大量のデータを簡単に取り込み、そのデータに基づいて大規模にアナリティクスを実行し、機械学習モデルを適用してビジネスの将来を予測できるよう、非常に堅牢で拡張性のあるシステムから始める必要があります。
- ほぼリアルタイムのアクセス:クラウドデータプラットフォームは、コストとして捉えるよりも、リアルタイムデータとそのデータにアクセスできるスピードから得られるメリットとして認識することが重要です。企業として、この力を得ることによりより強力なインサイトとより迅速な意思決定が可能となります。
- データタイプ:プラットフォームは、多種多様なデータを1つのプラットフォームにまとめられるものでなければなりません。構造化、半構造化、さらには非構造化データを高速で処理し、単一のデータセットとして分析に使用できる必要があります。
- データのエンリッチ化:社内データを補完し、よりリッチな分析を可能にするには、レーティング、ファクトセット、業界データといったサードパーティデータが利用可能である必要があります。ここでも、このようなデータを社内データにシームレスに結合できなければなりません。
- ガバナンスとセキュリティ:すべてのデータを1つの場所に集め、それに誰がアクセスできるのかを管理し、非常に高い安全性を確保できる必要があります。データが抽出されるごとに、誰がいつ抽出したのかを知り、その理由を尋ねることができなくてはなりません。
単一のクラウドデータプラットフォームの利用は、社内で使用しているSaaSポイントソリューションの数を制限すべきという私の考えとも密接に関連しています。人々は、すべてをシームレスに連携させ、すべてのデータを一元化されたリポジトリに格納することによる、唯一の信頼できるシステムを必要としています。システムが追加されると、頭痛の種も増えることになります。セキュリティの観点からも、システムが少なければそれだけ監視が容易になり、社内環境で何が起きているかを常に把握しやすくなります。
データを集め、データサイエンスに投資する
企業は大量のデータを抱え、ビジネスパートナーなどがセカンドおよびサードパーティデータという形でそれらのデータにアクセスする場合があります。多くの財務組織は、サイロ化されたデータや、データを分析可能な形にするために必要とされる手動作業に悩まされています。おそらく一番大きな課題は、ERPデータをCRMデータと統合することですが、それは単純明快にできるものではありません。だからこそ、クラウドデータプラットフォームを使用して容易にデータを一元化することが重要な第一歩となります。
先見の明があるCFOは、カスタマーの使用パターンやその他多くの重要なビジネスインサイトを予測できない限り、データの力を生かすことは不可能であることを認識しています。だからこそ、リアルタイムにデータを分析すること、さらにはデータを駆使した予測ができるデータサイエンティストに投資することに重点を置くべきです。
この先どのような未来が待っているにしろ、財務組織にとって変わらぬ事実が1つあります。それは、有能な会計士と財務アナリストが必要なのはもちろん、予測モデルを構築でき、システム、データ、プロセスを理解し、会社に大きな成功をもたらすことができる人材も必要であるということです。