消費ベースの価格設定:すべてのカスタマーの価値実現と成功を確実なものに
注:本記事は(2021年9月16日)に公開された(Consumption-based Pricing: Ensuring Every Customer’s Value and Success)を翻訳して公開したものです。
消費ベースの、すなわち使用量ベースの価格設定は決して目新しいものではありません。電気、ガス、水道の請求書を見れば、各月の支払額は使用量に応じて異なっていることが分かります。最近では、革新的な企業がソフトウェアアプリケーションを通じて使用量ベースのプロダクトやサービスを提供することで、他の業界(運輸、ホスピタリティ、通信、保険)の改革を後押ししています。消費者としては、Uberを呼ぶときやAirBnBで短期間のレンタルをするときなど、このような傾向を目にしています。
しかし、過去10年間においてIT市場に強烈な影響を与えたのは、消費ベースのモデルでハードウェアやソフトウェアを提供してきたクラウドプロバイダーでした。クラウドストレージやサービスをどれくらい利用したかに基づいてカスタマーに請求することを始めたAmazonはこのモデルのパイオニアであり、その後をMicrosoftやGoogleが追随しました。
しかし、ほとんどのSaaSプロバイダーはこれに追随することはありませんでした。SaaSの初期の頃、ベンダーはサブスクリプションモデルに依存していました。このモデルの場合、カスタマーはソフトウェアを使用するために、所定の数のライセンスまたはシートに対する価格を定期的に支払う必要があります。SaaSベンダーにとって、サブスクリプションは収益の予測がしやすいためSaaSベンダーにとって便利ですが、カスタマーにとっては難しい面があります。たとえばカスタマーは必要なライセンス数を事前に予測し、契約したライセンスや機能すべてを実際に使用するという保証がないまま月額料金を支払う必要があります。
SaaSのデリバリおよびサブスクリプションモデルは、現在は主流と見られていますが、カスタマーはサブスクリプションが提供できる以上の強力な価値を得る資格があります。だからこそ、消費ベースのモデルが今まで以上に意味を持つようになります。自身のソフトウェア投資からさらなる価値を引き出し、競争上の優位性を得て、SaaSベンダーと真のパートナーシップを確立する格好の機会となります。
営業部門が消費に対して責任を負う場合のカスタマーのメリット
サブスクリプションモデルの場合、営業チームには、より多くのライセンスやアップセルをプッシュしようというインセンティブが働きます。営業も同じパターンをたどりがちです。アカウントチームが話をまとめ、契約に署名すると、次にカスタマーはサポートまたはカスタマーサクセスチームに託されます。
サブスクリプションが大きすぎて、更新前に未使用の枠があっても、アカウントチームは痛くもかゆくもありません。カスタマーの支払いは製品やサービスの実際の使用量ではなく、サブスクリプションの規模で決まるからです。カスタマーが署名した後の営業担当者は気楽な立場です。
一方、アカウントチームのノルマや報酬が、カスタマーの消費や成功に直接結びついていたらどうでしょうか。その場合は、カスタマーの購買だけでなく、ソリューションの利用や、そこから高い価値を得ることが、アカウントチームにとっての最善の利益となります。アカウントチームは身を乗り出して、「お客様のより迅速な本稼働を実現するために、弊社がお手伝いできることはありますか?」などと言いながら、カスタマーが最適化を通じて効率性を高め、追加のデータワークロードをデプロイしたり新しいビジネス使用事例を発見したりするなど、ソリューションをより積極的に活用してもらえるよう懸命に協力することでしょう。
消費量ベースの営業モデルの最も素晴らしい点は、インセンティブを中心として営業部門とカスタマーの利害が自然に一致するところです。なぜならアカウントチームは、カスタマーのスケジュールや、テクノロジーのデプロイ方法、本稼働に移行できる時期、持ち込むデータワークロードの種類を理解することが、収益を伸ばす最良の方法であると認識しているからです。アカウントチームはカスタマーにとって日々の擁護者となり、プロジェクトチームに欠かせない存在となり、カスタマーが商機をものにできるよう毎日懸命に取り組むようになります。
従来型のライセンシングやサブスクリプションベースのモデルでは、このような連携やメリットを得ることができないのは明らかです。アカウントチームは、真のパートナーとして顧客中心主義的に行動する場合のみ、最初から最後までカスタマーに投資するようになるからです。
顧客中心主義的チームの証明
新しい営業モデルが登場するたびに、消費ベースのソリューションの購入と使用について、新たな課題が浮上します。そこで、ベンダーが真に使用料ベースの価格設定を提供していることを確認するための着目点をご紹介します。
- アカウントチームはカスタマーの成功に投資してくれるか:使用量ベースのモデルを採用しているベンダーは、販売契約に2つの評価基準を含めることで、アカウントチームの意欲を刺激します。1つは営業部門と新規ビジネス、もう1つは消費(または収益)です。後者は特に、インセンティブとカスタマーを常に結びつけます。
カスタマーはすぐに違いに気づくはずです。アカウントチームが契約を長期的な関係の始まりとして扱うからです。チームはカスタマーの仕事に興味を持ち、ビジネスとニーズを理解しようと努力します。アカウントチームが報奨を受けるのは、1) カスタマーがSaaSソリューションの利用を始めたとき、2) カスタマーがソリューションの価値を実感し、ベンダーとの素晴らしい関係を認め、プロダクトやサービスの利用にさらに前向きになり、2つ目または3つ目の契約に署名したとき、となります。
- 購入前に試せるか:見込み客は事前に消費ベースのモデルのメリットを知りたいと思うでしょう。私は価値表現の形として「show, don’t tell(語らずに示す)」という手法を信奉しているので、カスタマーにはまず、購入前にカスタマーの環境でSaaSプロダクトを使用し、本物のデータワークロードを実行することを推奨しています。こうした実践的な体験により、カスタマーはソリューションを使用してビジネスで何ができるかを理解できます。
カスタマーとベンダーとの契約は、データストレージとコンピュートを事前に見積もり、その単位価格を反映したものであるべきです。もちろん、課金されるのは実際の使用量のみですが、こうした事前の見積もりによって、より有利なレートを確定しておくことにメリットがあります。
- SaaSプロバイダーはカスタマーの財務チームに知識提供をしてくれるか:これまでカスタマーは、特定のリソースプロダクトについて、固定された量を固定価格で購入していました。そして追加のリソースが必要になった場合、前もって予算を組み、改めて購入する必要がありました。
使用量ベースのモデルの場合、財務チームの発想の転換が必要です。使用量ベースのモデルは、使った分だけ支払えばよいので、経済的に無駄がない点がカスタマーにとってのメリットとなりますが、予算を固定ではなく可変的なものにする必要があり、支出は資本的支出(capex)ではなく事業経費(opex)となります。必要な場合、SaaSプロバイダーはこの種の知識をカスタマーに提供すべきです。
- 契約と消費:財務的な発想の転換と切り離せないのが、契約をどのように行うかについての新しい考え方です。使用量ベースのモデルでは、最悪のケースのシナリオを想定した契約をする必要がなくなるため、カスタマーはひと月または四半期に数日しか発生しないであろう最大負荷での製品利用を想定した金額を、年間を通じて支払う必要がなくなります。
これにより、ビジネス予測に関して正確を期する必要がなくなるため、参入障壁も大幅に低くなります。このソリューションは伸縮性があり、必要に応じた対応が可能です。したがって、使用量を少なめに見積もり、最低限の契約にこだわってもまったく問題ありません。契約で合意したユニットと価格設定でしばらく稼働してみて、必要となってからオンデマンドで購入することも、または契約を更新することも簡単です。それぞれの契約手法の長所と短所を理解することで、カスタマーはビジネスにとって最良の意思決定を下すことができます。
- カスタマーサクセスチームがない:使用量ベースのモデルの場合、販売後もアカウントチームが関与し続け、カスタマーがソリューションを利用しているか、また利用から価値を得ているかを確認します。アカウントチームは、カスタマーが現実世界の問題を解決し、新たな使用事例を見つけられるよう、積極的にお手伝いします。重要なことは、最初からカスタマーに適したチーム作りをすることでカスタマーを成功に導くことです。
同時にカスタマーは、契約後もベンダーのプロフェッショナルサービスやトレーニングに投資することが推奨されます。SaaSソリューションを最大限に活用し、データワークロードを本番稼働させる上で、これらのサービスやトレーニングは非常に貴重です。
- 使用量の予測がデータに基づいている:消費量ベースのモデルでは、SaaSカスタマーのそれぞれが個性的です。これから先、カスタマーがサービスをどの程度利用するかは使用事例やワークロードによって異なるため、正確に見極めることは、ベンダーにとって容易ではありません。
そのような問題を補ってくれるのがデータです。使用量ベースのモデルを採用しているベンダーは、データやデータサイエンスを使用してカスタマーが現在の消費量を把握しているか確認し、将来の使用量を予測できるように手助けしてくれるはずです。本稼働が開始されると、アカウントチームはカスタマーと協力し合いながらカスタマーの使用量パターンを分析し、追加のワークロードまたはプロジェクトについて適切に見極めます。
営業部門がカスタマーの成功に縛られるのがあるべき姿
疑いなく、使用量ベースのモデルは将来の営業の在り方を示すものです。世界3大企業であるAmazon、Google、Microsoftはこのモデルを採用しています。さらに重要なこととして、このモデルはカスタマーが求めていることを象徴しています。使用量は価値と関連性があるからです。
当社は、使用量ベースのモデルについて知り、ビジネスをその方向に転換したいと希望するSaaS企業やアプリケーションプロバイダーと頻繁に対話を重ねています。さらに消費ベースのモデルを採用してアプリケーションやデータセットを収益化したいと考えているカスタマーとも日々対話しています。
このテクノロジーの波はすぐそこに迫っており、カスタマーはすぐに、さまざまな業界で使用量ベースの製品やサービスを活用できるようになるでしょう。ただしその場合は、アカウントチームが最初から最後までカスタマーの味方になるように社内でインセンティブを調整しているSaaSベンダーと協働することが重要です。的確に実行するベンダーは、その持久力によって真のカスタマーパートナーシップを確立する可能性が高くなり、カスタマー側では自ら利用するSaaSプロダクトから最大限のメリットを引き出せる可能性が高くなります。